杉山清貴「やっぱりシティポップのブームが大きい」 “今の熱量”を映し出すライブと名曲秘話を振り返る

近年のシティポップブームの中心的存在として、アメリカをはじめとした全世界で評価が高まっている杉山清貴。彼が2024年後半のコンサートツアーとして開催した『Sugiyama Kiyotaka Concert Tour 2024「古いシネマを観るように、、、」』のファイナル公演(12月21日/東京・昭和女子大学 人見記念講堂)のステージを収めた映像作品がリリースされた。
ソロデビュー曲「さよならのオーシャン」、2ndシングル曲「最後のHoly Night」をはじめ、あまりライブで歌われていなかったレア曲、エルヴィス・コステロの歌唱で知られる「She」(映画『ノッティングヒルの恋人』主題歌)のカバーを含んだセットリストを通して、現在の杉山清貴の奥深い魅力を味わえる本作。住友紀人、西脇辰弥、堀川真理夫という凄腕のマルチプレイヤーたちの演奏を含め、まさに大人の音楽ファンを魅了する映像作品に仕上がっている。
リアルサウンドでは、杉山にインタビュー。本作を中心にしながら、楽曲にまつわる思い出や今後の活動について幅広く語ってもらった。(森朋之)
凄腕プレイヤーと作り上げた“コンセプチュアル”なツアーの発端

――杉山清貴さんにリアルサウンドに登場していただくのは、昨年9月以来。前回はオメガトライブのメンバーの皆さんと一緒のインタビュー(※1)でしたが、昨年のツアー(『杉山清貴&オメガトライブ〜FIRST FINALE TOUR 2024〜“LIVE EMOTION”』)についてあらためて聞かせてもらえますか?
杉山清貴(以下、杉山):世間の盛り上がり方がすごかったですね。去年のツアーは30本以上あって、最初は「こんなにできるの?」と思っていたんですよ。しかも9月にはパシフィコ横浜で2DAYS公演まであって、「いやいや、そんなに入らないでしょう」と(笑)。でも、どちらもたくさんの方にきていただけて、びっくりしました。
――想像以上の反応だった、と。
杉山:やっぱりシティポップのブームが大きいですよね。2019年にもツアーをやってるんですけど、その時は十数本だったんですよ。この5年のあいだに状況が変わったというか、「え、なんでこんなに盛り上がってるの?」っていう。ありがたいですけどね、もちろん。
――その後、杉山さんは『Sugiyama Kiyotaka Concert Tour 2024「古いシネマを観るように、、、」』を開催。ファイナル公演を収めた映像作品がリリースされます。まずは「古いシネマを観るように、、、」というタイトルの由来について教えていただけますか?
杉山:ツアーを組むにあたって、制作スタッフの方から「タイトルがあったほうがいいんじゃないですか?」と言われまして。春から夏にかけてオメガトライブのツアーをやっていたので、差別化するためにもタイトルがあったほういいでしょう、と。その連絡をもらった時、ちょうど黒澤明監督の映画『羅生門』を観てたのかな? それで、「映画みたいなストーリーやシーンが見えてくるような曲を選んでツアーをやるのもいいな」と。
――なるほど。古い日本映画が好きなんですか?
杉山:はい。新しいものも観ますけど、黒澤監督だったり、小津安二郎監督だったり。コンサートの内容とはあまり関係ないですが(笑)。
――ツアー『古いシネマを観るように、、、』には、住友紀人さん、西脇辰弥さん、堀川真理夫さんが参加。3人の音楽家が複数の楽器を演奏し、楽曲によって編成が変化するというユニークなステージでした。
杉山:いろんな楽器を演奏できるミュージシャンばかりですからね。2019年の暮れにクリスマスライブをやった時も、同じような編成だったんですよ。その時は西脇くん、真理夫くん、青柳誠くんというメンバーで。それがすごくよかったから、「またこの形でやりたいよね」って言っていたんです。で、去年の後半のツアーが決まった時に「あの時の編成でやろう」と。青柳くんはスケジュールが合わずだったんですが、同じくサックスと鍵盤が両方できる住友さんにお声がけしました。住友さんは南佳孝さんのライブにも参加していて、そこで知り合いました。3人とも経験豊富でスキルもすごいので、いい化学反応が起きるんじゃないかと思っていたんですけど、素晴らしかったですね。
――ライブのアレンジはどうやって作っていったんですか?
杉山:3人に任せておけば、どんどん決めてくれるんですよ。「この曲はこの楽器をやるから、これをやって」みたいな感じで編成が決まって。「だったらギター弾こうかな」「いいんじゃない」みたいな感じだったので、すごく助かったし、楽でした(笑)。ライブを観てくれた方も、曲によって演奏する楽器が違うのでびっくりしてましたね。
「風が止んでも」「PARK SIDE ROMANCE」……今明かされる誕生秘話

――セットリストについてはどうでしょう? かなりレアな楽曲もありますよね。
杉山:そうですね。時期によって自分のなかでブームがあって、「3年続けて歌ってるなあ」という曲もあれば、しばらくやっていなかった曲もあったりして、それを上手く混ぜられないかなと。セットリストを作るのは本当に大変なんですよ。ファンの方からも「最近、あの曲を全然歌ってないですね」みたいなことを言われることもあって(笑)。ツアーの選曲をする時にこれまでの楽曲を聴き直したんですけど、「こんな曲もあったな」って思い出すことも多いんですよ。レコーディングで歌っただけの曲とか。
――ライブで一度もやってないということですか?
杉山:意外と多いんですよ、そういう曲。去年のツアーでも20年ぶりくらいに歌った曲がありました。「風が止んでも」「PARK SIDE ROMANCE」「サマー・ムーン」とか。キーが高い曲ですね、大体は。このツアーの時はキーが高い曲もやってみようと思って。もしダメだったらキーを下げてもいいかなと考えてたんですけど、なんとか大丈夫でした。
――キーの設定、大事ですからね。
杉山:曲の世界観が変わりますから。キーを下げて歌うのが悪いことだとは思わないですけど、原曲の世界観を伝えるためには下げないほうがいいのでね。

――では、曲について聞かせてください。「She」は映画『ノッティングヒルの恋人』の主題歌。エルヴィス・コステロの歌唱で知られていますが、この曲を歌うようになったきっかけは?
杉山:2012年だったと思うんだけど、『FUJI ROCK FESTIVAL』に行ったんですよ。そこでエルヴィス・コステロのライブを観て、「やっぱりかっこいいな」と思って。そのあとにあらためて「She」を聴いて、自分で歌ってみたらすごく気持ちよかったんです。もともとはシャルル・アズナヴールが作ったシャンソンなんですけど、歌詞がいいんですよね。彼女に対する思いをずっと並べて、最後に「やっぱり彼女が好きだ」と歌っていて。
――洋楽のカバーもやはり歌詞が大事?
杉山:うん。中学生の頃、The Beatlesの曲を聴きながら、自分なりに歌詞を訳したりしてたので。
――そして「風が止んでも」は、アルバム『HARVEST STORY』(1997年)の収録曲で。
杉山:この曲を作った頃は、ハワイで暮らしてたんですよ。当時、マイケル・ジョーダン主演の実写とアニメを組み合わせた映画(『スペース・ジャム』)が公開されたんですけど、そのサントラがすごくよくて。大好きな曲があって、それをイメージしながら作ったのが「風が止んでも」ですね。
――この曲も映画つながりなんですね。「PARK SIDE ROMANCE」は、アルバム『kona weather』(1987年)の楽曲。この曲もハワイがモチーフですか?
杉山:はい。マノア地区というエリアがあって、そこがすごく好きだったんですよ。山に挟まれていて、いつもしっとりしていて。花がきれいだったり、おいしいお店もあって、とにかく気に入ってたんです。その場所のことを歌にしたいなと思って――当時はインターネットがなかったので――作詞の青木久美子さんにハワイの本や写真をお送りして、「こういう歌詞にしてください」とお願いしました。
――どうしてご自分で歌詞を書かなかったんですか?
杉山:その頃は詞を書くことにあまり興味がなくて、作曲に重点を置いていたんですよね。作詞することもありましたけど、プロの作詞家の方にお願いしたほうがもっといい歌詞になるだろうな、と。オメガトライブの時は作家の方の曲を歌うことが多かったから、そこで免疫ができたんでしょうね。最終的に歌うのは自分なんだし、よりクオリティの高いものをお届けしたほうがいいなと思って。