『不器用のかたち』『漫才過剰考察』『ミスター・チームリーダー』……新しく何かを始めたい人にオススメの3冊

新しく何かを始めたい人にオススメの3冊

 新しく何かを始めよう。新年を前にして、こう思い立つ人も多いことだろう。だが、もはや思うことだけが恒例行事となっている人も、また少なくないはず。そこで今回は、何かを始めるためのヒントとなる、11月発売のオススメ本3冊を紹介したい。

不器用な著者が物作りに挑戦

 とりあえず、手を動かしてみる。それが何かを始めるための最短ルートなのかもしれない。11月27日発売の藤原麻里菜 『不器用のかたち』(小学館)は、思いついたあまり役に立たないものを作るプロジェクト「無駄づくり」で注目を集めるコンテンツクリエイター・文筆家の著者が、興味の赴くままにさまざまな物作りに挑戦。〈不器用な私が堂々と下手なものを作り、それを一冊の本にまとめて、世界全体の創作レベルをぎゅんと下げてやろう〉という意図のもと、完成までの模様を書いたエッセイ集である。

 「不完全なテディベア」「ぶっ壊れハンモック」「100円ビヨンセ」など、オールカラーで写真の掲載されている完成品は、各エッセイに付けられたタイトル通りの出来栄え。すぐ手順を無視しだすし、作業途中で諦めたり妥協したりするのだから、当然の結果ではある。だが読んでいる途中に「ダメな人だ」と、匙を投げる気になんてならない。完成までの過程には、未知のジャンルへ躊躇なく飛び込むフットワークの軽さや、不器用であることを肯定する論理的思考、物を作る行為自体を楽しむ姿勢といった見習いたい点も多くある。それに(読者から見て)失敗作にも、それぞれどこか見どころはある。個人的にツボだったのは、紫陽花を表現した和菓子を作ろうとして生まれた、〈小中学生のときに使った絵の具の筆を洗うバケツの中の汚ねえ水みたい〉な色合いの練り切り。自分でこんな傑作を作れた日には、当分愉快に過ごせそうである。

令和ロマン・髙比良くるまの漫才考察本

 好きなものを突き詰めて考えることで、やりたい事が見えてくることだってある。11月8日に発売された令和ロマン・髙比良くるま『漫才過剰考察』(辰巳出版)は、日本一の若手漫才師を決める大会「M-1グランプリ」で自身が優勝してからの、「何ができるか探し」の記録ともいえる考察本である。

 本書で興味深いのは、漫才について縦横無尽に語る中で、著者が自分を決して主役に据えようとしないところだ。最初のお題「M-1」では、〈来年こそいい大会にしたい〉という想いから、自分たちが優勝した2023年大会も含めたこれまでの決勝の出場者・出番順・ネタの傾向、客席の雰囲気、予選動画の配信によるネタバレ問題などを考察。次回大会での漫才のトレンドと、鍵を握る芸人たちを予想する。

 2つ目のお題「寄席」では、観客がお笑い好きばかりとは限らない場での漫才、地域によって個性の異なる漫才のスタイルについて考えてみる。そこには寄席用のツカミとなる顔芸で、相方・松井ケムリが鳥羽周作に似ているという脆弱な武器しかない、令和ロマンの漫才のこれからを探るという側面もありそうだ。だがそれよりも、M-1を高尚なものと捉えがちな人々の視野を広げ、漫才の多様さを楽しんでもらうための論理を構築する意味合いの方が強い。

 役に立ちたい・考えたいという著者の欲望は、芸人としてのアクの弱さにつながりかねないようにも見える。ところが行動に移してみると、2024年も再びM-1に出場・決勝進出を果たして盛り上がりに一役買っていたり、その大会期間中に観客を啓蒙するような本を出していたり。考察と同様に過剰で、強力な個性に転化されているのが面白い。「自分のため」ではなく「自分以外のため」に何かするのも、充分やりがいのあることではないかと、その姿に蒙を啓かれもする。

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