【写真多数!】田んぼのまん中にポツンと神社がある理由とは? 写真家・えぬびいに聞く、今なお残る日本の原風景の魅力

田んぼのまん中にポツンと神社がある理由
えぬびい『田んぼのまん中の ポツンと神社』(飛鳥新社)

 神社と聞くと、明治神宮や下鴨神社のように境内が鬱蒼とした森に囲まれ、その中に社殿が鎮座しているイメージがある。ところが、神社の形態は多様なのだ。地方に行くと、田んぼの中にボツンと建つ神社を目にしたことはないだろうか。そうしたポツンと神社、通称“ポツ神”の写真を撮りためたのが、写真家のえぬびい氏である。

 このたび、えぬびい氏が各地を巡って撮影してきたユニークなポツ神の写真を一冊にまとめた『田んぼのまん中の ポツンと神社』(飛鳥新社/刊)が出版された。その写真を見てみると、地域によってもポツ神の姿は異なっているし、その地域の文化や風土と密接に結びついているものも少なくないようだ。

 今回、えぬびい氏に独占インタビュー。ポツ神の探し方から撮影の仕方、そして奥深い魅力まで存分に語ってもらった。話を聞いていると、ポツ神こそが日本の原風景であり、日本人の信仰心の深さがよく表れた存在なのではないか――と思えてきた。(山内貴範)


不思議な風景に魅了される

――えぬびいさんが、ポツンと立っている神社“ポツ神”に興味を持ったきっかけはなんですか。

えぬびい:写真を撮り始めたのは10年少し前ですね。廃墟の撮影から始まり、5~6年経つとだんだん視野が広がり、奇妙で不思議な風景を撮影するようになりました。そうした撮影スポットを探しているとき、田んぼの中にある神社に気づいたのです。面白いと思って現地に出かけたら、懐かしくて、しかもさわやかな光景が広がっていて、心を打たれました。これを機に、もっと同じような神社があるののでは、と本格的に探すようになったのです。

――神社を紹介する本だと、社殿の意匠や歴史に注目するパターンが多いなか、こうした特徴的なロケーションに注目した本は珍しいと思います。

えぬびい:僕はどちらかといえば神社自体よりも風景が好きで、これまで撮る対象も、建物が含む風景でした。そして、神社を撮るなら京都の有名な神社よりも、他人が撮っていないものを撮りたいという思いが強い。ポツ神は、風景、不思議、奇妙、そして他人が撮っていないということで、僕の好みにぴったりだったんです。

――興味を持って撮りためていたら、出版の声がかかったわけですね。

えぬびい:2021年から撮影を始めてSNSなどで発表していたら、2023年に飛鳥新社の編集者である杉山茂勲さんから「本にしませんか」と連絡がありました。とはいえ、当時はまだ本にするほどの点数がなかったので、連絡をいただいてから1年くらいかけて、本格的に撮影をしました。

――季節ごとに分類したのは、えぬびいさんのアイディアなのですか。

えぬびい:はい。本にするなら、春、夏、秋、冬と季節ごとに分類したほうが見栄えがいいし、田んぼのなかにある神社ですから、季節ごとの変化も感じられやすいと思いました。そう思い立って、校了までの間はひたすら毎週どこかに撮りに行っていました。

ポツ神を探すコツ

――地方の農村が多く、観光パンフレットにもまず出ていない神社ばかりですから、探すのが大変ではないかと思います。発見するコツはあるのですか。

えぬびい:目星をつけるためにはGoogle MAPの衛星写真を使います。田んぼが多い地域を検索して、明らかに変わったものがあればピン止めしておく。ある程度の物件数がたまったら、ローラー作戦でひたすら撮影していくのです。僕はこれまで廃墟を探してきて、地図から面白い物件を見つける素養があったので、結構見つかります。あと、SNSでも情報を提供してくれる方がいました。

――写真はドローンで撮影するのですか。

えぬびい:はじめは地上から撮影していたのですが、ドローンを格安で譲っていただいてから、撮影が一層本格化しました。地上とは違う、鳥の視点で対象を捉えることができるのがドローンの魅力ですね。撮影のときに意識しているのは、主観を入れず、敢えてドラマチックに撮らないことです。下から煽ったりとか、カメラの特性を使った加工などは行わずに、見えたままの風景を撮っていきたいと思っています。それは廃墟を撮っていた頃から一貫していますね。

――地上から見たときとかなり印象が異なるポツ神は、ドローンと相性抜群ですね。

えぬびい:僕もすごく相性がいいと思っています。上空から撮影すると、不思議さが際立ちます。こんなふうに田んぼに残されているということがわかりやすいですし、インパクトが強いと思います。

日本人の信仰心の表れ

――えぬびいさんは、昭和中期、1963年頃から行われた、碁盤の目状に田んぼを整える圃場整備にポツ神の起源があると分析していますね。こういった整備の際に社殿を壊したり移転しようと思えばできたわけですが、それをしなかった点に日本人の信仰心があるように感じます。

えぬびい:そうですね。信仰心はあると思いますし、このまま残しておこうと考えるのは日本人ならではの感性だと思います。社殿だけでなく参道も残してあり、ちゃんとお参りに行くことが考慮しているのも素晴らしいです。あと、実際に移したら災いがあったなどのエピソードがある神社もあるんですよ。

――収録された写真を見ると、山形県、福島県、千葉県などの神社が多いと思いました。

えぬびい:数自体は東日本が圧倒的に多いですね。まず、広大な田んぼがあるコメどころが東日本に固まっているという理由があります。西日本は山が険しいので、東日本ほど広い田んぼを造れる平地が少ないんです。東日本のなかでも山形県は多かったですね。写真集を編集するにあたってバリエーションが必要なので、見た目が近い神社は除外しているのですが、山形は特徴的な神社が本当に多いです。

――山形の冬の風景も素晴らしいですね。

えぬびい:冬になると山形は雪が積もるので、印象的な雪景色が多く撮影できました。冬の章では山形にかなり助けられましたね。誌面構成では、だんだん雪が積もって、雪深くなって終わるようにしたかったのです。鳥居の7割がほぼ埋まっている風景が撮れたのもよかったです。

――神社に祀られている神様には、何か傾向がありましたか。

えぬびい:やはり、稲荷神社が多かったです。田んぼの中にある神社なので、五穀豊穣を願う気持ちが込められていると思います。とはいえ、それ以外の系統も多く、意外とバラバラでした。

お気に入りの神社は

――私は、茨城県小美玉市にある水神宮が気に入りました。レンコン畑の中にあるロケーションがいいですね。えぬびいさんが特にお気に入りの神社はどれですか。

『田んぼのまん中の ポツンと神社』P54より、茨城県小美玉市の水神宮

えぬびい:千葉県香取市の水神社です。何を隠そう、僕が最初に見つけたポツ神です。基本的にはどんなポツ神であっても、参道があるので歩いて神社まで行けます。ところが、水神社は参道がなく、島のように田んぼの中に浮かんでいるのです。水神社は規模も小さいのに、鳥居、祠、樹木といった具合にポツ神の構成単位が揃っていて、しっかり神社の体を成している。最高のポツ神だと思っています。

『田んぼのまん中の ポツンと神社』P16より、千葉県香取市の水神社

――最初にいきなりそんな面白い物件に行けるとは、さすがですね。

えぬびい:ちなみに、写真を撮っていたら地元の人が話しかけてきました。神社の由緒を聞くと、この周辺はもともと池で、神社はそのなかに浮かんでいる小島にあったのだそうです。その時は船でお参りに行ったのだとか。その後、池の一部を田んぼに改めて今の状態になったのだそうです。こうした変化は面白いし、珍しい。何より神社の見栄えもよくて感動しました。

――ほかに印象に残っている神社はありますか。

えぬびい:福島県会津若松市の八幡宮も印象に残っています。桜がある神社を通りたいと思って千葉や茨城を回ったのですが、タイミングが遅く、既に桜が散った後でした。そこで急遽、会社を休んで福島まで行ったんですよ。不安に思いながら最初に訪れたのが八幡宮でしたが、現地に行ったら圧倒されました。桜の咲き具合といい、周辺の風景の良さといい、完璧だったのです。理由はわかりませんが、会津地方の神社は桜が植えられているケースが多いのです。この本に収められた桜の写真も、会津地方が多いですね。

『田んぼのまん中の ポツンと神社』P7より、福島県会津若松市の八幡宮

――地元の人から情報をもらうことはありましたか。

えぬびい:私は本業が会社員で、休日に撮影を行っています。撮影と移動をひたすら繰り返しているせいで、タイミングよく人が通ってくれることが滅多にありませんでした。そもそも、神社が住宅街にあるわけでないので、もともと人と遭遇しにくい環境といえます。それでも、偶然に神社の掃除をしている人に話を聞けたことはあります。

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