湯浅政明は何が偉大なのか? 映画『ちびまる子ちゃん』から最新作までのキャリアを総括

湯浅政明のキャリアを徹底総括

 日本アニメを代表する映画監督・湯浅政明の最新作が、吉本ばなな原作・奈良美智装画の小説『ひな菊の人生』の映画化となることが先日発表された。2026年公開予定で、湯浅監督が新たに設立した制作会社「ame pippin」とフランスのMIYUプロダクションとの共同製作となる。

吉本ばなな×奈良美智による小説『ひな菊の人生』劇場アニメ化決定 監督は湯浅政明

吉本ばななによる小説『ひな菊の人生』が、劇場アニメとして2026年に公開されることが決定した。   原作は、30カ国以上で翻訳…

 『犬王』を発表したのち、オープニングなどの短い作品は手掛けていたものの、しばらく充電期間に入ることを明言していた湯浅監督は、その動向が世界中のアニメーションファンから注目されていた。『ひな菊の人生』は、今年のアヌシー国際アニメーション映画祭の「Work in Progress」部門に選ばれており、その情報が解禁される予定だ。

『ひな菊の人生』原作挿画

 アヌシーは世界最高峰のアニメーション映画祭であり、湯浅監督は常に同映画祭から新作を待ち望まれている、世界でも数少ない作家の一人だ。そんな同監督の最新作とあって、国内外ですでに大きな期待が寄せられている。

 充電期間を経た湯浅監督が新たなスタジオでどのような作品を手掛けるのか、これまでの過去の仕事を振り返ることで期待を膨らませてみたい。

『ちびまる子ちゃん』『しんちゃん』で才能発揮、映画が国際的に評価

 湯浅監督は、アニメーターとしてキャリアをスタートさせた。芝山努に憧れ同氏の所属する亜細亜堂に所属。若いころから頭角を表し、アニメーターとしても演出家としても、重要な仕事をこなしている。初期の『クレヨンしんちゃん』や『ちびまる子ちゃん』といった作品でオープニング・エンディングの絵コンテや原画として参加し、空間そのものを縦横無尽に動かす独特の才能を発揮。特に演出と原画を担当した、映画『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』の音楽パート「1969年のドラッグレース」「買い物ブギ」といったシーンの、あふれる想像力とのびやかなアニメーションは高く評価されている。

『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』はまったく色褪せない 卓越した作画表現は必見

『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』がソフト化とともに、Netflixなど各種配信サービスでも配信が開始された。90年代を代表…

 その後、映画の世界で湯浅監督の才能は開花していく。2004年の初長編監督作品『マインド・ゲーム』は国内外で衝撃を与えた。2D・3D・実写の素材を混ぜさわせた独特の映像世界を展開し、強烈な世界観を提示し高い評価を獲得、国内では文化庁メディア芸術祭や大藤信郎賞を受賞し、カナダのファンタジア映画祭では実写中心の映画祭でありながら、実写作品を押しのけて最優秀作品賞を受賞している。

 その後もテレビアニメ、映画と誰にも真似できない作品を連発し続ける。国内のみならず、海外にも活躍の場を広げ、アメリカのテレビアニメーション『アドベンチャー・タイム』の一篇「Food Chain」を監督したことをきっかけにサイエンスSARUを立ち上げ、ここを拠点に数多くの傑作を作ってきた。日本のNetflixオリジナル作品としては初期の1本『DEVILMAN crybaby』や、宮﨑駿・高畑勲に次ぐ3人目のアヌシー最高賞受賞者となった際の『夜明け告げるルーのうた』といった作品を送り出している。

『きみと、波にのれたら』©︎2019「きみと、波にのれたら」製作委員会

 2017年から2022年にかけて、湯浅監督は非常にハイペースで作品を発表し続けていた。2017年には『夜は短し歩けよ乙女』と『夜明け告げるルーのうた』の2本の長編映画を発表、翌年全10話の『DEVILMAN crybaby』が配信開始となり、2019年にはABEMAで配信されたシリーズ『SUPER SHIRO』と長編映画『きみと、波にのれたら』、2020年にテレビアニメ『映像研には手を出すな!』とNetflixの『日本沈没2020』、そして2021年に『犬王』を完成させている(日本公開は2022年)。

湯浅政明×LDHが生んだアニメーション映画の新たな可能性 『きみと、波にのれたら』の革新性とは

私は『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』や『クレヨンしんちゃん』の湯浅政明監督が手がけた躍動感溢れる映像が好きで、最初は「何な…

 このハイペースでの制作の後、サイエンスSARUを退社し充電期間に入った湯浅監督。そして、この度満を持して発表されたのが『ひな菊の人生』というわけだ。

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