『ハボック』は『男たちの挽歌』へのラブレターだ ギャレス・エヴァンスの“過剰さ”が光る

「Havoc」とは日本語で「大混乱」の意である。というわけで、名は体を表すバイオレンスアクション『ハボック』(2025年)がNetflixで配信開始された。監督は“乱暴なほうのギャレス”こと、ギャレス・エヴァンスである(“ロマンチストなほうのギャレス”がギャレス・エドワーズだ)。
ド腐れ刑事ウォーカー(トム・ハーディ)は、今日も今日とて荒れた日々を送っていた。ある夜、香港マフィアのボスの息子がマシンガンで蜂の巣に。しかも事件の容疑者は市長の息子だった。ウォーカーは市長の汚れ仕事を受けていた関係で、息子を助けるようにお願いされる。ほどなくして香港マフィアのボスが、息子の仇をうつためにブチギレ状態で現地入り。かくしてロンドンを舞台に、血みどろの大混乱が起きるのであった。
ギャレエヴァさんといえば、インドネシアの格闘技シラットを導入した『ザ・レイド』(2011年)で名を上げ、その後も暴力一本道の人生を歩んでいる人物だ。近年はドラマシリーズ『ギャング・オブ・ロンドン』(2020年)で、徒手空拳の格闘シーンだけではなく、壮絶な銃撃戦を撮りまくって、アクション映画ファンの度肝を抜いて……と、ここで「壮絶」と書いたが、ギャレエヴァさんの撮るアクションは、本当に壮絶すぎるのである。
ギャレエヴァさんの最大の魅力は「過剰さ」だ。「わしゃぁ引き算美学なんて知らんのちゃ。なんでも足していきゃあエエんじゃ」と言わんばかりに、とにかく何かと盛りまくりである。それまで静かな場面でも、殴り合いが始まった途端に全体の動きが体感で1.25倍速再生に。カメラも揺れまくり、役者もキレまくり、人体が壊れまくり。周辺のものや、人体の一部や血のりが飛び散りまくる。安易な邦画を揶揄する定型句に「登場人物が叫びすぎ」があるが、ギャレエヴァさんの映画に比べれば、お通夜みたいな静かさだ。
そんなギャレエヴァさんが「大混乱」というタイトルで作った映画であるから……本作は、もちろん全開である。冒頭から大事故としか言いようがないカーチェイスが炸裂し、本格的に事件発生後はトム・ハーディ演じる荒くれ刑事もキレまくり。それを上回る勢いで、先方の香港マフィアも大ギレ。さらに中盤のクラブ突撃シーンでは、ちょっと犯罪をかじった程度の少女までもブチギレる。やられる人は高い所から危険な落ち方をして、人体は銃弾で穴だらけになり、刃物や鉄パイプが飛び交う。クライマックスは山小屋を舞台にした大銃撃戦&大乱闘になるのだが、ここも壮絶のひと言だ。何十人もの香港ヤクザが真正面から突っこんで来て、荒くれ刑事と若者たちが銃と刃物とガッツで迎撃。わんこそば感覚で死体の山が出来上がっていく。正直、アクション中の動きがあまりにも忙しいので、キャラの立ち位置などが分かり辛い部分もあるが、迫力のゴリ押しで一気に攻めるあたり、いかにもギャレエヴァさんである。そして、この過剰さに往年のアクション映画ファンは“ある人物”を思い浮かべるはずだ。香港の巨匠、バイオレンスの詩人、ジョン・ウーである。