『TOMOO Live at 日本武道館』スペシャル編成による集大成的ライブ それぞれの想いが注ぎ込まれた満杯の“器”

TOMOO、初の日本武道館公演レポ

 シンガーソングライターのTOMOOが、自身にとって初となる日本武道館でのワンマンライブ『TOMOO Live at 日本武道館』を5月23日に行った。この日は「武道館スペシャルバンド」と名付けた総勢21名のサポートメンバーとともに、過去曲から最新曲まで満遍なく並べた現時点での集大成的なライブを披露。今宵限りのサウンドスケープで、満員のオーディエンスを魅了した。これまでTOMOOはツアーやワンマンライブをやるたび、自身の「現在地」を象徴するようなタイトルを冠してきたが、今回の武道館ワンマンは無題で挑んだ理由もライブの終盤では語られた。

 会場に入ってまず驚いたのは、ステージが客席のどこからでも見渡せるように設置されていたこと。定刻となり、客電がついたままの状態でサポートメンバーたちが袖から登場。バンドマスターの大月文太(Gt)を筆頭に、勝矢匠(Ba)、幡宮航太(Key)、河村吉宏(Dr)、Taikimen(Per)、横山知子(Sax)、永田コーセー(B.Sax)、前田大輔(Tb)、織田祐亮(Tp)、細川愛梨(Flu)、中島優紀(1st Vn)、大嶋世菜(1st Vn)、山本大将(2nd Vn)、渡辺栞(2nd Vn)、河村泉(Va)、亀井友莉(Va)、関口将史(Vc)、村岡苑子 (Vc)、平岡恵子(Cho)、吉岡悠歩(Cho)、たかはしちひろ(Cho)という布陣だ。

 突然場内が暗転し、大きな拍手と歓声が湧き上がる。調律するバイオリンやブラスの音が場内に響き渡り、アリーナ、スタンドのオーディエンスが次々と立ち上がる。ほどなくしてステージ中央の奥にある階段からTOMOOが姿を現すと、武道館の熱気がさらに上がる。そして、ステージ中央の一段高くなった場所に設置されたアップライトピアノの前に立ち、スポットライトを浴びながらTOMOOが力強く鍵盤を叩く。まずは彼女の名を全国に知らしめた代表曲「Ginger」でこの日のライブはスタートした。

 冒頭から割れんばかりのハンドクラップが自然発生的に鳴り響き、そのボルテージは続く「Friday」にも受け継がれる。TOMOOはマイクを持ち、ステージを取り囲むオーディエンス一人ひとりの顔を確かめるよう、ゆっくりと見渡しながら丁寧にメロディを歌い上げていく。この曲の間奏では、ストリングスとホーンセクションをフィーチャーしたバロックポップ的な見せ場を作るなど、いつもとは一味違うアレンジにオーディエンスの高揚感は上がる一方だ。

TOMOOライブ写真(撮影=renzo masuda)
(撮影=renzo masuda)

「こんばんは、TOMOOです。武道館、今日はいい夜にしましょう」

 そう短く挨拶した後、「恋する10秒」へ。この曲は、TOMOOのトレードマークであるアルトボイスと、透き通るようなファルセットを巧みに織り交ぜるサビが心地よい。相変わらずハンドクラップは鳴り止むことを知らず、『007』のテーマソングを彷彿とさせるスリリングなイントロが印象的な「夢はさめても」まで一気に駆け抜ける。

 「改めましてTOMOOです。今日はここ、日本武道館に来てくれて本当にありがとう。会えて嬉しいです」ようやく一息つき、噛み締めるように話し始める。「噂には聞いていたんです。この場所は、想像しているよりも来てくれた人を近くに感じるし顔も見えるって。本当だったんですねー。見えてますよ、めちゃくちゃ」と言って改めて客席を見渡すTOMOO。「それに、なんだかこの場所はホッとしますね。なんでだろう……。初めて武道館でライブを見た10年前は、『なんだここは。でっか過ぎて、(自分が)ライブをする場所じゃない!』なんて思ったんですけど、今日を迎えてみたらすごくホッとします」としみじみ語った。

 3rdミニアルバム『TOPAZ』(2020年)に収録された、ブルーアイドソウルなポップチューン「らしくもなくたっていいでしょう」では、テレビのブラウン管を模したマスクを被ったダンサーが登場し、ミュージックビデオで披露したダンスをTOMOOとともに再現。途中でマスクを脱ぎ捨てると、ダンサーはMVにも出演していたえりなっち本人というサプライズに、会場は大いに湧き立った。

TOMOOライブ写真(撮影=renzo masuda)
(撮影=renzo masuda)
TOMOOライブ写真(撮影=Kana Tarumi)
(撮影=Kana Tarumi)

 「えりなっちとはいつか共演したいと思っていたんですけど、5年という月日を経て武道館でそれを果たすことができました」と、嬉しそうに語るTOMOO。さらに、ピアノとストリングスをフィーチャーした「地下鉄モグラロード」、色とりどりのレーザーが飛び交う「ナイトウォーク」と懐かしい楽曲を披露した後、入り組んだコード進行と美しいメロディが個人的にTOMOOベストソングの一つである「17」へ。この武道館スペシャル編成で聴くシンフォニーポップは格別だった。

 メンバー編成をぐっと減らし、一足早く夏を先取りしたような楽曲「コントラスト」を経て、「ライブハウスで歌い始めたころ、1曲目か2曲目によくやっていた」という「あめ玉」をアップライトピアノの弾き語りで披露。

 「音楽活動を始めて13年。よろけそうになるたびに、音楽を続けさせてくれた人たちがいました。その人たちのことを、私は『友人』と呼びたくて。たとえその友人たちが今、そばにいなくても、私はあなたがいるまま歌っている──そんな想いを歌いたくなったので、この曲を演奏します」そう言って「Your Friend」を弾き語る。きっと多くの人が、この曲を聴きつつ自分を支えてくれた人たちのことを思い起こさずにはいられなかっただろう。

 さらに、ピアノとアコギ、そしてストリングスセクションを加えた編成で「金色のかげ」、少しずつ編成を増やし「雨でも花火に行こうよ」から「ベーコンエピ」と人気曲をつなげ、会場をゆっくりと温めていく。そしてフル編成に戻り、「Grapefruit Moon」「Cinderella」「風に立つ」とミドルテンポの楽曲を壮大なアレンジで響かせると、客席からは大きな拍手が巻き起こった。

TOMOOライブ写真(撮影=renzo masuda)
(撮影=renzo masuda)

 「2018年ごろにできた曲を、偶然ですが3曲続けて歌わせてもらいました。すごく、しっくりきますね。これが『武道館スペシャル』なんだなって。数年前にできた曲ではあるのですが、その楽曲の『器』に水が、数年かけてだんだん溜まっていって、今いっぱいになったような気がします。そういう楽しさ、嬉しさがありますね」と語るTOMOOの表情は、音楽への愛で満ち溢れていた。

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