松坂桃李主演『逆賊の幕臣』は令和的大河の新潮流に 安達奈緒子本来の社会派気質を発揮?

2027年のNHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』の制作発表が3月3日に行われた。幕末期を舞台に、“勝海舟のライバル”と言われた男・小栗上野介忠順(おぐりこうずけのすけただまさ)の生涯を通じて、幕末の動乱を「幕臣」の視点で描くという。
松坂桃李「30代最後の作品に」 大河ドラマ『逆賊の幕臣』への揺るぎない覚悟
2027年のNHK大河ドラマが『逆賊の幕臣』となることが発表された。主演を松坂桃李が務め、脚本をNHK連続テレビ小説『おかえりモ…
脚本・主演を務めるのは、それぞれ安達奈緒子と松坂桃李。安達は『おかえりモネ』をはじめNHKドラマでは常連と言えるほどの作家だが、大河ドラマには初挑戦となる。一方の松坂も大河ドラマへの出演は3度目となるが、主演を務めるのは今回が初。
挑戦的な題材とこの座組は大河ドラマに何をもたらすのか。ドラマ評論家の成馬零一氏は、安達が大河ドラマで小栗上野介忠順を描くことには納得感があると語る。
「安達さんは朝ドラをはじめ“名作”と評判高いNHKドラマを手がけてきたので、大河ドラマも遅かれ早かれ担当されるとは思っていました。タイトル『逆賊の幕臣』からも分かるように、誰もが知っている人物を主人公とした“王道”路線ではないですが、それも安達さんらしいですよね。2012年に放送されたITベンチャー企業を舞台にした月9の恋愛ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)について安達さんにインタビューをしたときに、ラブストーリーを書かないといけないのに、気を抜くと社会派テイストの話になってしまうと語っていたのを覚えています。そういった社会派テイストは、『サギデカ』、『透明なゆりかご』、『お別れホスピタル』といったNHKの作品には色濃く表れていて、その筆頭が『NHKスペシャル・未解決事件』の『File.09 松本清張と帝銀事件』第1部と『File.10 下山事件』だと思います。もともとドキュメンタリー番組の字幕を担当されていたそうで、いわゆる娯楽作よりも社会派作品の方が本来の資質なのだと思います。対して、『おかえりモネ』は朝ドラならではの娯楽性と安達さんの中にある社会派テイストが、ちょうどいいバランスで作られていた作品だったといえるかもしれません。その意味で、民放の恋愛ドラマや朝ドラの時は、エンタメ性と社会的テーマのバランスをうまく取りながら脚本を書いてきたという印象で、現在放送中の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の脚本を書かれている森下佳子さんと作風は近いですよね。森下さんも民放ドラマで描く時はもう少し視聴者の目線に合わせて、商業性と作家性を両立させているのですが、NHKのドラマ、とりわけ大河ドラマを描く時は良い意味でリミッターが外れて、作家性が一気に発揮されているので、安達さんの『逆賊の幕臣』も凄い作品になるのではないかと期待しています」
成馬氏は近年の大河ドラマの作風の傾向について「ある時代に従来とは違った視点を持ち込んで描く傾向がある」として、こう続ける。
「近年の大河ドラマ、感覚的には『いだてん〜東京オリムピック噺〜』以降の作品ではとくに『べらぼう』や『光る君』がそうであるように、すでに扱ったことのある時代に違う視点を持ってくる手法が確立されつつあります。この流れの一つとして、幕末を違う切り口で描くものになるのは、最近の大河の傾向としても必然だなと。少し前の時代では、司馬遼太郎の原作を忠実になぞるような“無難”な企画が続いていました。おそらく日本人のイメージする共通の歴史感覚があったんだと思いますが、それがどこかで崩壊した。坂本龍馬を扱うにしても『竜馬がゆく』(1968年)と『龍馬伝』(2010年)では異なるものとなっており、高度経済成長期の昭和とグローバル化と格差社会が進んだ平成〜令和とでは、大河ドラマに求められるものが変わりつつあるのだと思います。。結果的に今の大河は挑戦作の枠になっているので、結果的に“何となく時代劇が好きだった”お父さん世代や、高齢層の男性世代は少しとっつきにくくなっているのかもしれませんが、その代わりこれまでとは違う価値観を描いた作品が増えており、『逆賊の幕臣』もその延長にあるのだと思います。戦国時代や幕末はもうやり尽くされているような気がしますが、切り口次第ではいくらでもやれるはず。歴史の奥深さを感じます。歴史上“主要な人”とされている偉人はある程度扱ってきたから、本作では逆に坂本龍馬などの人物を誰が演じるのかという点で、キャスティングでもおもしろいことが起きそうな気がします」