芳根京子のなつ美が素晴らしすぎる! 新婚ラブコメで終わらない『めおと日和』の尊さ

ただのラブコメではない『めおと日和』の尊さ

 春ドラマの注目作と言えば、人気ドラマの続編『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)、あるいは『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(TBS系)と『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)の“火曜22時対決”を挙げる人が多いだろう。

 そんな中、回を重ねるごとに注目度が高まっているのが、西香はちの同名漫画を原作に据えた、芳根京子主演×本田響矢共演のフジテレビ木曜劇場『波うららかに、めおと日和』だ。

 舞台は奇しくも放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』と同時代の昭和11年、交際ゼロ日婚からスタートする、歯がゆくも愛らしい、ハートフル・昭和新婚ラブコメである。

 筆者は原作を一部読んでいるものの、そもそも民放ゴールデンプライム帯の連ドラで昭和を描くこと自体珍しいだけに、どんな温度・距離感で視聴者が受け止めるのかは未知数だと思っていた。しかし、第1話を観て、春ドラマのダークホースだと感じた。実際、とある媒体の「1話だけ観て採点」企画で満点をつけた作品でもある。

 映像の美しさや、昭和初期を再現するセットや衣装、小道具などの丁寧な仕事ぶりには、「朝ドラよりも朝ドラらしい」という声もある。生瀬勝久が扮するドラマオリジナルキャラ「活動弁士」を置き、当時の文化を解説したり、登場人物にツッコミを入れたりするスタイルにより、視聴者が活動弁士と視点を重ねて観られる巧さもある。

 しかし、何より本作を時代錯誤でなく、遠い世界のファンタジーでもなく、現代に生きる私たちに親しみ・共感を与える作品にしているのは、芳根京子という特異な存在だろう。

 芳根が演じる主人公・なつ美は、関谷家の四姉妹の三女。父親に突如「嫁ぎ先が決まった」と告げられ、帝国海軍に勤める江端瀧昌(本田響矢)と結婚することになる。しかし、結婚式当日、瀧昌は海軍の訓練で式に出られず、「写真」参加という珍事に。その後初めて顔を合わせた瀧昌は無表情で無口、何を考えているかわからず、なつ美は不安になるが、慣れない家事に懸命に取り組み、妻として支える中、瀧昌の優しさに気づき、徐々に2人の距離は近づいていく。

 出会ったばかりの瀧昌は、何をしても、何を聞いても無表情のまま「問題ありません」「……以上です」ばかりで、キャッチボールが成立しない。しかし、それは女性に不慣れで不器用なため。一方、なつ美もまた恋愛経験がなく、男性に免疫がない。そのため、2人はちょっと手が触れただけで動揺するほどウブだ。

 そんな2人にとって「初夜」はあまりにハードルが高く、なつ美は思い切って瀧昌に直接尋ねる。

「“初夜”とは何をするものなのですか」

 驚き、動揺しつつも生真面目に「まぐわう、ということです」と瀧昌が説明すると、その言葉の意味を辞書で探そうとするなつ美。そこで、「せ……接吻から」と言ってみたもの、それまた高いハードルで、瀧昌が「……という人たちもいますが」と前置きし、距離を縮めるために手を触る→なつ美の手が冷たいことから布団をかける→手が温かくなってきたからと「触ってみますか」となつ美が言う→触ってみたものの、2人「この後どうしたら?」と、2人手をつないで眠るのだ。

 しかも、瀧昌は海軍という仕事柄、数カ月単位で家を空けることも多く、滅多に会えないことが2人のじれったくもどかしい愛情を盛り上げていく。

 瀧昌からの電報を受け、なつ美が約束の場所にワンピースでおめかしして行くと、目の前に現れたのは白い軍服姿の瀧昌で、2人は慣れぬ姿に互いに見惚れ、テレた様子。しかし、なつ美はスカートから脚が出ているため落ち着かず、瀧昌は軍服をなつ美の肩にかける。海軍の嫁としてふさわしくないのではと不安になるなつ美に、風でスカートがめくれそうで目のやり場に困るからと言う瀧昌。

 留守の間、妻が他の男に惹かれることもあるから、花を贈ることを同僚に勧められても、恥ずかしさで花が買えない瀧昌。夫と距離を縮める作戦を姉妹や母から伝授されるなつ美。さらに、なつ美の幼なじみ・瀬田準太郎(小宮璃央)が登場し、なつ美との親し気な様子に瀧昌は嫉妬する。しかし、ここから三角関係勃発かと思いきや、なつ美は自分が時間をかけて距離を縮めた瀧昌と、幼なじみがわずかな時間で打ち解けることに対して嫉妬するという“天然”ぶりを発揮(本当は互いになつ美をめぐる挑発とけん制なのだが)。

 2人のやりとりはあまりにピュアで、観ている側が恥ずかしくなってくるほどだ。

 それにしても、ともすれば、わざとらしいカマトトとして反感さえ買いかねないウブななつ美を、あざとくなく、嫌みなく、アホじゃなく、かつ上品に演じられる芳根京子は素晴らしい。そんな芳根扮するなつ美の素直さに驚き、戸惑い、「不愛想で生真面目で無口」の殻が破られるように徐々に柔和な顔を見せる本田響矢もハマり役だ。

 さらに、そうした2人の純粋さの背景も見えてくる。

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