『国宝』“少年期の喜久雄”黒川想矢の演技に圧倒される 『怪物』『【推しの子】』からの進化

黒川想矢の演技は紛れもなく“国宝級”

 映画やドラマで描かれる物語に対してではなく、物語の世界を生きる俳優の演技そのものに強く胸を打たれることがある。心を揺さぶられ、魂を揺さぶられることがある。そしてすっと、涙を流してしまうことがある。いま多くの人にとってそのような存在になっているのは、映画『国宝』で間違いないだろう。歌舞伎役者たちの生き様を描いたこの作品は、まさしく俳優の映画だ。一人ひとりの俳優がベストアクトを刻んでいるが、とりわけ黒川想矢の演技に圧倒されている人が多いらしい。

『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 作家・吉田修一による同名小説を映画化した本作は、芸の道に人生を捧げた喜久雄という人間の半生を描く、李相日監督の最新作だ。任侠の一門に生まれた主人公の喜久雄は、抗争で親を失ったことにより歌舞伎役者の家に引き取られることとなる。上方歌舞伎の名門の当主である花井半二郎(渡辺謙)にその才能を見込まれたからだ。そんな喜久雄の少年期を演じているのが、黒川想矢なのである。

 青年期以降の喜久雄を演じるのは吉沢亮であり、本作の主演は彼だ。吉沢のパフォーマンスは私たちの想像や期待を遥かに上回るもので、多くの観客が彼の力演に圧倒されている。実際の歌舞伎などがライブであるのに対して映画は切り取りの芸術でもあるから、どこまで役を突き詰め、どのレベルまで芸を極めていくかは、作り手の意向や俳優個人の意志に依るところが大きい。良くも悪くもそれらしく見せることができれば成立してしまうのが映画であり、同時期にいくつもの作品や役に挑まなくてはならない日本の俳優にとって、突き詰めたくてもそうもいかない現状があったりもする。

『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 けれども本作は主演の吉沢をはじめ、喜久雄の生涯のライバル・俊介を演じる横浜流星など、誰もが相当な稽古を重ねたことが分かる。大変なプレッシャーがあったと思うが、それを押しのける彼らの熱は、スクリーンを超えて伝わってくるのだ。そのような座組に参加しているひとりが黒川なのである。

 少年期の喜久雄というのは非常に重要な役どころで、スクリーンに映し出される黒川の演技を目の当たりにしたいま、これを演じられる者がほかにいるとは思えない。鋭い感受性に高い技術、心身の強さ、そして少年らしいピュアネスを持ち合わせた者でなければならないはず。これは本作に参加したすべての俳優にいえることではあるのだが、黒川がいなければこの『国宝』は生まれなかったのだろう。

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