『チ。』ノヴァクは本当に“悪役”だったのか? ラファウとの対話に見る“肯定”の意義

『チ。』ノヴァクは本当に悪役だったのか?

 そもそもノヴァクは本当に悪役だったのだろうか。確かに反知性の先頭に立ち、暴力と死が充満した世界で自由を求めた主人公たちを葬ってきた。しかしノヴァクは誰よりも娘思いな父でもあった。第2話で「我が子への愛が私の生きる理由です」「正直私は世界や人類を守ろうなんて大それたこと思っちゃいない」「けど、家族、友人の日々の信仰や生活を守るためなら、なんだってする」と話していたノヴァクを思い出してほしい。この感覚は最も庶民的で共感できるものである。家族のためにその時代に常識とされたことを遵守させる仕事に従事したことを、私たちは咎めることができるだろうか。ラファウをはじめとした主人公たちのように常識を疑い行動する勇気が、どれだけあるだろうか。

 最後にノヴァクは暴力による「痛み」を無視し続けたことを悔悛し、娘ヨレンタが天国へ行けるように祈り絶命する。燃え盛る炎の十字架の前で。あまりにも凄惨で、美しい、ノヴァクの最期。ノヴァクの信仰とその死が肯定されることを私は祈りたい。

■放送情報
TVアニメ『チ。―地球の運動について―』
NHK総合にて、毎週土曜23:45~放送
Netflix、ABEMAにて、各話放送終了後配信
キャスト:坂本真綾(ラファウ役)、津田健次郎(ノヴァク役)、速水奨(フベルト役)、小西克幸(オクジー役)、中村悠一(バデーニ役)、仁見紗綾(ヨレンタ役)
原作:魚豊『チ。 -地球の運動について-』(小学館『ビッグスピリッツコミックス』刊)
監督:清水健一
シリーズ構成:入江信吾
キャラクターデザイン:筱雅律
音楽:牛尾憲輔
音響監督:小泉紀介
オープニング曲・主題歌:サカナクション「怪獣」
エンディング曲:ヨルシカ「アポリア」
アニメーション制作:マッドハウス
©魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について—製作委員会
公式サイト:anime-chi.jp
公式X(旧Twitter):@chikyu_chi

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる