『秘密』最終話が示したこの世界を愛するということ 薪と青木の物語は新章へ

「あの人を止めろ。お前があの人を止めるんだ」
『秘密~THE TOP SECRET~』(カンテレ・フジテレビ系)最終話では、行方をくらました薪(板垣李光人)の前に過去の亡霊が現われた(※本記事はドラマ本編の内容に触れています)。
しばらく余韻に浸りたいので、こうして文字に書き起こすことに正直言ってためらいもある。あえて筆を執ったのは、1人でも多くの人に今作を知るきっかけになってほしいからだ。未見の方や結末を知りたくない人は、次ページまで読み飛ばしてもらってかまわない。
失踪した薪が持ち出したのはレベル5の機密データ。警察は指名手配された薪への発砲を許可し、SATが出動して捜索を続ける。もう1人、薪を追う青木(中島裕翔)は岡部(高橋努)から情報を得る。岡部によると、薪を狙った爆破事件と青木の姉夫婦の殺害など一連の事件を裏から操る人間が警察内部にいて、薪は自らおとりになることで、その存在をあぶり出そうとした。レベル5のデータを見た薪は、彼らにとって何としても手に入れるか、排除しなければならない人間なのだ。
しかし、誤算が生じる。単独行動の薪は第九との連絡を絶った。青木を見た薪は第九から犠牲者を出さないために、全責任を負って敵の懐に飛び込んだ。岡部は薪が手を汚し、自らの命を差し出すことを危惧して青木に言う。「お前が止めろ」と。
薪を追う青木の視線。対する薪自身は少しだけ先の未来にいる。青木が駆けつけたとき、そこにあったのは暗殺者の亡骸と血まみれの薪。かたわらで瀧本(眞島秀和)が息絶えていた。そこで何があったのか。
『秘密』において、MRI捜査によって見ることができるのは全て過去である。第九の捜査員は、すでに起きてしまった出来事を追体験する。視聴者も同様だ。真実は刻印され、消すことができない罪を前にして私たちは震える。一方向に流れる時間が、今作の世界を堅固で揺るぎないものにしている。
劇中で時間を逆流させる存在は、悪の姿を借りて登場する。本作において、他人の思念を操り、死んでなお相手の心を支配する貝沼(國村隼)のように。人間の心そのものが闇であり、未知の領域を秘めているがゆえに、因果律に亀裂を生じさせる芸当も可能になるのだろうか。貝沼とクオリア教会に接点があり、教団と貝沼の利害が一致したことから、瀧本を送り込んで、第九の捜査員をマインドコントロールする作戦が発動した。すべては貝沼の歪んだ願望に端を発していた。
だがここでまた別の誤算が生じる。それは瀧本だった。母親を殺した教団への復讐を誓う瀧本は、貝沼に脳を乗っ取られながら、必死に抵抗して薪に後を託す。瀧本役の眞島秀和は、1人の人間の中で繰り広げられる善と悪のせめぎあいを身一つで表現した。
瀧本が真相を語ったことで、鈴木(中島裕翔)が薪に自分を撃ってくれと懇願した理由も明らかになった。振り返ってみると、國村隼演じる貝沼は、薪の行動に無意識下で干渉し続けていたと感じる。物語上は序盤で去ったが、本作のトーンを決定づける意味で貝沼は重要なキャラクターだった。