『キャスター』ポスト・トゥルース時代の日曜劇場が開幕 阿部寛が追う偽悪の先の“真実”

「あなた、人を殺していますね?」
何を伝え、何を書くか。4月13日にスタートした『キャスター』(TBS系)は、鋭利なナイフのような言葉を私たちの胸元に突き付けた。
このドラマを観るために必要な前提知識は「今」である。2025年4月13日。この瞬間、日本と世界で何が起きているのか。目を開き、耳を傾けること。それ以外はいくらでもあるのに、それだけが欠けている。この国に、この時代に。
民放テレビ局JBNの報道番組『ニュースゲート』に降り立ったニュースキャスター進藤壮一(阿部寛)。直言居士の言葉もかすむ歯に衣着せぬ物言いは、相手が誰だろうとおかまいなし。空気が読めない彼なら、官房長官にすら劇薬をぶっぱなしかねない。この男、かなり危険である。
進藤の傍若無人なふるまいには理由がある。進藤をJBNに招いたのは会長の国定(高橋英樹)で、ニュース報道を根底からぶっ壊すことが進藤に課せられた任務だった。
報道とは何か。過去作で繰り返し問われた命題に本作は踏み込む。不正があると叫んで不正がなくなるなら、こんなに簡単なことはない。センセーショナルな見出しで関心を引き、言葉のすりかえと印象操作で大衆を扇動するのは報道とは言えない。
初回拡大版の意味を物語る第1話だった。回想シーンから現代へ飛び、放送前のリハでインパクトは十分。二転三転どころか五転六転、目まぐるしく変わるシーンに脳をフル回転させて見入った。複数脚本家によるチームライティングの成果が、初回の69分に凝縮されていた。
進藤は何を考えているかわからない人物である。報道に携わるものにとって「毎日がエイプリルフール」であり、「息を吐くように嘘をつく」。総合演出の崎久保華(永野芽郁)は振り回されっぱなしだ。華のおかげで私たちはストーリーから取り残されずにすむ。進藤と並走する2年目ADの本橋悠介(道枝駿佑)が、からんだ糸をより分けて視聴者に手渡す。
出演をキャンセルした羽生官房長官(北大路欣也)をつかまえて取引を持ちかけ、羽生の救急搬送を現場からレポート。ドラマ的なご都合主義と思わせ、搬送先の変更というありがちな事象から病院が未承認の人工血管手術を実施していたことを明らかにし、小児患者の術後死から政治家の関与へ展開する。