『あんぱん』は今田美桜の集大成だ 『3年A組』『おかえりモネ』で築き上げた確かな表現力

『あんぱん』は今田美桜の集大成だ

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』も第8週に入り、朝田のぶ(今田美桜)は御免与尋常小学校の教師になって1年半。20歳の風圧を浴び、縁談の話が殺到中だ。

 のぶは、ここまで元来の勝ち気でおてんばな姿を見せつつ、時代の流れに沿って素直に価値観を変化させていった。今田美桜は女学校時代のはちきんな姿から女子師範学校で軍国教育にはじめは抑圧されながら、徐々に傾倒していき“愛国の鑑”と呼ばれるまでを1人の人物の変化として自然に演じている。主演としての強い存在感を見せつつも、嵩(北村匠海)や蘭子(河合優実)の見せ場ではサポート役かのように一歩引いた芝居を見せることもあった。こういった今田の器用さはこれまで出演してきた作品で培われたものだろう。

 今田の最初の出世作となったのは、『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(TBS系)、『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)の2作だろう。小悪魔的な真矢愛莉役も女王のような女子のリーダー・諏訪唯月役も、今田自身の見た目が存分に生かされた現実離れした雰囲気のある役柄だったが、今田の演技力によって実写ドラマの中で馴染む、地に足のついた存在へと導いていった。

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 今田にとって初の朝ドラとなった『おかえりモネ』(2021年度前期)での神野マリアンナ莉子役は、その場にいるだけで目を引いてしまう今田の見た目を逆手にとった役柄だったように思う。莉子は「かわいい女の子」として扱われることで、希望のキャリアとの距離を感じていた人物。突破口を模索する莉子の激しさすらある強さは、主人公・百音(清原果耶)と良い対比となり、百音の価値観に影響を与える人物でもあった。莉子の弱さや葛藤を感じさせる展開もあり、強い存在感と繊細さを使いこなす今田の芝居の巧みさを感じさせる役柄だった。

 『おかえりモネ』で培った存在感と繊細さは、近年の今田の芝居を語るうえで欠かせないキーワードだろう。『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』(日本テレビ系)の健気で頑張り屋な田中麻理鈴役も『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)の強い正義感を持つ花咲舞役も、過去作のリメイクというハードルを易々と飛び越える求心力で、主演たる貫禄を見せつけた。一方で、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)や映画『わたしの幸せな結婚』では、感情の機微を丁寧に掬い上げていく声色や所作が魅力的で、見逃してなるものかと画面に惹きつけられた。

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 今田のこれまでの作品を振り返ってみると、のぶという役柄にさまざまな役柄の要素が生かされていることが分かる。“はちきんおのぶ”と呼ばれていた頃ののぶは太陽のような熱さ、“愛国の鑑”として強い愛国心を持つ姿に表れる屈託のない素直さは、麻理鈴や舞に通じるものがある。一方で軍国教育に戸惑う表情や嵩に謝ることができず後悔の涙を流す姿には、のぶの中に確かにある弱さが見え、『いちばんすきな花』の夜々役で見せた繊細さを感じさせる。のぶの中にある光と影をしっかりと見せることで、一見現実離れしたキャラクターにも見えるのぶを立体的に見せることに成功しているのだ。

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