『魔物(마물)』は究極の“アンチグルメドラマ”だ “食べない料理”が炙り出す人間の本性

『魔物』は究極の“アンチグルメドラマ”だ

 本作がただの“韓国風ドラマ”ではないことは、その物語の構造と演出にも表れている。ツッコミどころの多い“マクチャンドラマ”として楽しんでいると、ある一線を越えた途端、一気に濃密なサスペンスへと姿を変える。その緩急の落差こそが、本作の最大の魅力だ。

『魔物(마물)』はただの“マクチャンドラマ”ではない 塩野瑛久が成立させた“ありえない男”

現在放送中のドラマ『魔物(마물)』(テレビ朝日系)は、テレビ朝日が韓国の制作会社「スタジオ・SLL」とタッグを組み、『主君の太陽…

 テレビ朝日系の金曜ナイトドラマといえば、『おっさんずラブ』や『無能の鷹』のようなコメディ作品も多い枠だが、本作の暴力シーンや濡れ場の描写には容赦がなく、確かな生々しさがある。あやめに心を許していたように見えた凍也が、次の瞬間には暴力性を垣間見せることで、視聴者は否応なく物語の深淵に引きずり込まれるのだ。

 この落差の演出は、映像美とも深く結びついている。全体的に暗いトーンや、被写界深度の浅いレンズ、カメラの揺れ――日本の地上波では見慣れないカットや照明の使い方が、登場人物の心理を視覚的に追体験させ、心を揺さぶる。登場する料理だけでなく、その作品づくりにも韓国の“味”をうまく織り交ぜているのだ。

 グルメドラマが「食べること」で癒しや共感を描いてきたとするなら、『魔物(마물)』はその対極にある。「食べないこと」を通して、人間関係の歪みや欲望の暴走、そして感情の爆発を描いている。

 “食卓に出されたのに、食べずに終わる”という状況が、視聴者にとってこれほどまでに痛烈な印象を与えることは珍しい。『魔物(마물)』は、食事という“日常の快楽”に潜む不穏な欲望を、逆照射する作品なのだ。

『魔物(마물)』第5話予告動画

 第5話の予告では、あやめと夏音、そして亡き名田の妻・陽子(神野三鈴)が、なぜか3人でサムゲタンを囲む姿が映し出されていた。およそ嫌な予感しかしないが、次回こそおいしく食べられるのか。それとも、湯気とともに希望も立ち消えるのか。グルメドラマの逆をいく、胃がキリキリする料理描写に注目しながら、『魔物(마물)』を楽しみたい。

『魔物(마물)』の画像

魔物(마물)

テレビ朝日が、韓国のスタジオ・SLLとタッグを組んで送る日韓共同制作オリジナルドラマ。不倫、DV、セックスなど愛と欲望にまつわる過激なテーマを掲げたラブサスペンス。麻生久美子と塩野瑛久が初共演にして濃厚なシーンに臨む。

■放送情報
『魔物(마물)』
テレビ朝日系にて、毎週金曜23:15~24:15放送
出演:麻生久美子、塩野瑛久、北香那、神野三鈴、佐野史郎、大倉孝二、落合モトキ、宮本茉由、宮崎吐夢、うらじぬの、若林時英
原案:シン・ウニョン
脚本:関えり香
監督:チン・ヒョク、瀧悠輔、二宮崇
音楽:jizue
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)、パク・ジュンソ(SLL)
ゼネラルプロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)、チェ・へウォン(SLL)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、イム・チョヒ(SLL)、河野美里(ホリプロ)
制作著作:テレビ朝日・SLL 
制作協力:ホリプロ
©テレビ朝日・SLL
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/mamono/
公式X(旧Twitter):https://x.com/mamono_tvasahi/
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