I.N.A.「心の中にそれぞれのhideが生きている」 hide with Spread Beaverを再構築した記念ライブの舞台裏

hide with Spread Beaverが、2025年5月2日と3日の2日間にわたり、ワンマンライブ『hide Memorial Day 2025 hide with Spread Beaver “REPSYCLE” ~Life is still going on!!~』を東京体育館で開催。WOWOWにて5月3日の公演の模様が、6月29日に独占放送・配信される。
本公演では、オリジナルメンバーに加えて、PATA(X JAPAN、Ra:IN)と木村世治(ZEPPET STORE)がスペシャルゲストとして出演し、最新のテクノロジーを駆使しながら2日間通して完結する特別なセットリストでhide with Spread Beaverの楽曲が演奏された。
リアルサウンドでは、hide楽曲の共同プロデューサーであり、バンドのメンバーも務めるI.N.A.にインタビュー。同ライブ開催に至るまでのプロセスや制作過程、当日の手応えはもちろん、I.N.A.から見た色褪せることのないhideのカリスマや魅力について語ってもらった。(編集部)
「懐かしいんだけど、初めて観るみたいなものを目指した」

ーーhide with Spread Beaverはhideさんが亡くなったあとも2002年、2008年、2016年、2018年にイベントへの出演、2023年には25年ぶりのワンマンライブを開催。そして回を重ねるごとに、映像の中のhideさんと生のバンドのコンビネーションが洗練されていきました。それはどんなモチベーションがあってのことだったんでしょう?
I.N.A.:前回より良くしていこう、という感覚とはちょっと違って……その時々でできることは全てやっていこう、というかんじでした。
ーー全て、というのが鍵だったかもしれませんね。
I.N.A.:で、今回は準備に充てる時間がけっこうあったので、やれることが多かったんです。たしか去年の半ばくらいにはやりましょうってなっていたんで。コンセプトが固まったのは12月くらい。ちょうど12月は毎年hideのバースデーイベントがあるので、その時にバンドメンバーに会っていろいろと話をしました。

ーー12月ごろに固まったコンセプト、というのはどんなものだったんですか?
I.N.A.:去年リリースした『REPSYCLE〜hide 60th Anniversary Special Box〜』というアルバム。その「REPSYCLE」という名前をライブのタイトルにすることにしたんです。この作品は過去の音源をリサイクルしてリマスターしたものですが、それと同様にhideの生前と亡くなったあとにやってきたライブをもう一度リサイクルしてみよう、と思ったんですよ。
ーーアルバム自体は音質の異なる3枚のオリジナルアルバムを、時にはリアレンジも加えながら、今の質感に統一するべくリマスターしたものでした。そのライブ版、という感じでしょうか?
I.N.A.:そうですね。最近、いろんなアーティストが過去のライブの再現、とかやってるじゃないですか。またそれとは違ったニュアンスで、再現でもあるけどリサイクルもしてある。ここ何10年かの要素をぶちこんで新しいものとして再構築する、みたいなイメージでした。
ーー決して懐古的なものではないと。
I.N.A.:そうですね、とても懐かしいんだけど、初めて観るみたいなものを目指しました。
ーーコンセプトを決めたのちまず初めにやったことは?
I.N.A.:全体のスケジュール感を把握することですね。音と映像を再構築する作業もあるので、例えば本番1〜2カ月前から諸々をスタートして、とかだと間に合わないんです。
ーー歌ってる声や姿から時にはMCまで生前のhideさんのものを使うわけですからね。それらをバンドと合わせていくには大変な準備が必要な気がします。
I.N.A.:なので、半年近く前からバンド以外の部分の準備をしました。
ーー準備をするにもまずはセトリを決めることが必要ですよね?
I.N.A.:コンセプトに合ったセトリを組んでいく、というところから始めました。しかも僕らの体力のことも考えたら、このクラスの規模でのライブは最後かもしれない。そう思うといつも以上にやれることは全部やってみたくなった。そうなってくると曲数も30曲とかになってきて、当然1日分のセトリメニューでは入りきらない。だから2日間に分けて考えたんです。
ーー分ける目安は?
I.N.A.:生前のhideも、会場によって毎回セトリを変えていました。それは毎回来てくれるお客さんにも楽しんでもらいたいという部分と、いろいろ試しながら一つのツアーを通して最高のセトリを作りたいという想いがあったからです。今回はその時のセトリも参考に「なんでhideはこのタイミングでこの曲を入れたんだろう?」など、紐解きながら考えていきました。
ーー30年近く前のセトリも見返している?
I.N.A.:そうですね。あと、hideが亡くなったあとに行ってきたライブが2023年のツアーで一つ完成したと思えていたので、1日目のセトリはそこをベースに考えました。生前の2回のツアーのハイライト部分も取り入れながら。対して2日目の方は、リサイクルということをベースに考えました。2ndツアーから始まって、今までやってこなかった曲もはさんで、最後に1stツアーに戻るイメージで。曲の組み合わせは最終的に14バージョンぐらいまで更新したんですけどね。
ーーそれがフィックスして色んなことが実際に動きだした?
I.N.A.:はい。ただ「Cafe Le Psyence」などは当初、過去のダイジェスト映像を流そうと思っていたんですよ。でも、リハーサル開始1週間くらい前だったかな、SNSで「あれ、やってくれますよね?」という書き込みを見て、「ああ、だったらやった方がいいか」と思ったり。あとPATAさんはいつもだったらスペシャルゲストと言いつつも、ほとんどの曲に参加してもらってるんです(笑)。今回も最初はそう考えていたんだけど、体の不調があるということで数曲に抑えることになって、そこからまたギターのアレンジをやり直しました。あと、映像と生演奏とのシンクロが本番直前までトラぶったりもしまして、なかなか思い描いたスケジュール通りにはいかなかったですね。
ーーでも本番が始まってみたらそのシンクロ、これまででいちばん素晴らしかったです。もうどこまでが現実か分からなくなるぐらい。例えばD.I.E.さんのピアノソロに対してhideさんの「白魚のような指が……」というMC映像がからみ、そうするとすかさずカメラが指先をアップにして。
I.N.A.:あれは事前に作り込んだものじゃないんですよ。hideがいるときにやっていたことと同じですべて即興。
ーーあ、そうなんですか!
I.N.A.:音楽班と映像班とバンドの即興です。音楽班が出した音にD.I.E.ちゃんが反応して、それを見て映像班がhideの映像を出している。さらに照明班もその場で反応しています。
ーーそう聞くとさらにすごいですね。まさにトータルでライブ!
I.N.A.:僕もあそこまでになるとは思っていなかったんですけどね。お客さんの反応も想像以上に良かった。
ーーhideさんの声自体もいつも以上に鮮明に思えたんですが、これは気のせいですかね?(笑)。
I.N.A.:音自体もアップデートしています。歌のテイク(バージョン)を変えたり、いろいろ編集したり。データとして残っている素のボーカルをPAの人に渡して音作りしてもらったりもしました。
ーー準備といってもいろいろあるんですね。
I.N.A.:リハが始まったら僕自身も演奏するし、バンドのグルーヴも詰めていかないといけない。だからライブの出音のジャッジに関しては別の誰かが必要でした。hideの生前はそれを僕やレコード会社のディレクターがやっていたんですけどね。今回はここ数年ずっとhide作品のレコーディングエンジニアをやってくれてる手塚(貴博)さんに、ディレクションしてもらいました。当日の録音やWOWOW用のミックスもお願いしつつ。