『謎解きはディナーのあとで』の変わらないおもしろさ 櫻井翔のトリックスターぶりを堪能

映画『謎解きはディナーのあとで』が3月29日21時よりフジテレビ系で放送される。2013年に公開された本作は、櫻井翔演じる毒舌執事の影山と北川景子扮するお嬢様刑事の宝生麗子のコンビが、豪華客船で起きた殺人事件の解決に挑む。
ドラマ版『謎解きはディナーのあとで』(フジテレビ系)が放送されたのは2011年。あらためて観返すとドラマのおもしろさは変わっていなくて、作品の鮮度が失われていないことに感嘆する。2010年代ならではのセンスと現代に続く連続性が同居しているのが『謎解きはディナーのあとで』である。
今作のヒットには必然性があった。本屋大賞を受賞した原作や人気絶頂だった嵐の櫻井と北川をそろえた華のあるキャスティングだけでなく、ドラマ的な観点からも決して偶然ではない。以下、執事の影山にならって推理を披露させていただこうと思う。

『謎解きはディナーのあとで』はミステリーである。事件が起こり、名探偵が登場し、謎が解明される。その過程で意外な真実が明らかになる。というのが、古今東西繰り返されたミステリーのフォーマットだ。今作もそのフォーマットを踏襲しているが、そこにひねりがプラスされている。
その筆頭は、名探偵が執事であることだ。覚えているだろうか? かつて「執事ブーム」なるものが日本列島を席巻していたことを。いったいどれだけの人が本物の執事に会ったことがあるか考えると心もとないが、そのこと自体はまったく問題ではない。ここでいう執事はフィクションの産物で、架空の設定を成立させる作者にとっての黒子である。
執事が名探偵という設定はウィットが効いている。執事の条件は有能さである。無能なら麗子が連発するように即「クビよ、クビ!」となってしまう。どんなにご主人様に暴言を吐いても、影山が許されるのは有能だからである。スーパーマン願望を体現するのが執事で、同時に主人公の代行者でもある。執事であれば、特権的な地位から事件の真相にアクセスできる。謎めいて紳士的。なんと都合のよい存在だろう。創作界隈でブームになったのも納得だ。
その執事・影山を演じる櫻井のハマり具合がすごい。筆者はアラシックの姉に感化されて、一時期、嵐のファンクラブに入会していたが、メンバー5人のうち櫻井の魅力はそのトリックスターぶりにあると考える。ラップ担当の櫻井は、多才だが決して器用ではない。陰の努力を惜しまないことはもちろんだが、表情を変えずにやってのける憎らしいくらいのプロ意識は執事のイメージと重なる。

立て板に水を流すような櫻井の弁舌を今作では堪能できる。『謎解きはディナーのあとで』で最大の見どころは影山の謎解きパートだが、上から目線で説教するのではなく、うやうやしく主の麗子(≒視聴者)に見解を披露する。ラグジュアリーな快適さと、対極的な口の悪さ。ギャップ萌えに加えて、キャスターとラッパーを兼務する中で磨かれた櫻井の“言葉をデリバリーするスキル”がフルに発揮されているのが今作なのだ。