佐野勇斗、『くちびるに歌を』からの10年を振り返る 「20年に感じるくらい、すごく良い10年」

映画『くちびるに歌を』で俳優デビューしてから約10年の月日が経過した佐野勇斗。『おむすび』では主人公・結(橋本環奈)の夫・翔也役で出演し、目標のひとつだった朝ドラこと連続テレビ小説への出演も叶えた。眼の前の壁を越え続ける佐野勇斗は今何を思うのか。『おむすび』のクランクアップ直後、翔也役を通しての成長から次なる目標への思いまでじっくりと話を聞いた。(編集部)
2024年は初めて自分自身を褒められる1年間

――『おむすび』のクランクアップを迎えたときのお気持ちは?
佐野勇斗(以下、佐野):クランクアップは病院だったんですけど、その前に大阪のNHKで撮影終了セレモニーがあって。そのときに昔の映像とかを見て、いろいろと思い出して「うわぁ、これ当日ヤバいな。めっちゃ泣くだろうな」と思ったんです。でも、次の週にクランクアップを迎えたら、意外にも涙がまったく出なくて「あれ? こんな感じで終わっちゃうの?」みたいな。本当に実感がわかなくて、「お疲れさまでした!!」と明るく言えたんですよね。(橋本)環奈も同じく「あれ?」という感じでしたけど、結局、そのあとの打ち上げで大号泣していたので(笑)、僕だけまだ実感が湧いていない感じです。
――今後、じわじわくるかもしれないですね。
佐野:すごくいろんな人に「お疲れさま」と言ってもらえるんですけど、未だに「あ、ありがと……終わったのかぁ」くらいの感覚ですね。
――長丁場の撮影でしたが、改めて振り返るとどんな日々でしたか?
佐野:朝ドラ以外にもいろいろな作品を縫いながら、さらには同時並行でM!LKとしても活動していたので、2024年は「今まで生きてきて、初めて自分自身を褒められるな」と思った1年でした。自分にできることを日々、着実にやっていくことができたなって。朝ドラもなんとか無事に走り切れましたし、成長もさせてもらえたので、本当にオファーをいただけて、この役を演じられてよかったなと思っています。

――成長というのは、たとえばどんなところに感じていますか?
佐野:別の取材で「何が成長できたのか実感していません」と言っちゃったので、何か語ったら嘘になっちゃうな(笑)。でも、同じ役を1年間演じ切ったことに対してなのかな、とは思いますね。朝ドラが終わってまだ次の作品に入っていないので、今は「別の役を演じたときに、何か感じるのかもしれないな」と思っているんです。精神的なものなのかわからないですけど、ちょっと違う景色が見えてくるのかなとは思っています。
――年齢的に、高校生から30代までを演じるというご経験も初めてですよね。
佐野:そうですね。それから、父親を演じるのも初めてでした。

――父親役は楽しかったですか?
佐野:楽しかったとともに、台本を読んで初めて「どういう芝居をしよう」と思いました。どの作品でもクランクインしたときには「どう演じようかな」「相手役の方もどういうお芝居でくるかわからないからな」と思うんですけど、長く演じてきた役でそんなことを考えるなんて思っていなくて。1クールのドラマでも、後半には完全に役が体に馴染んでいるので、何も考えずに演じられるんですよね。でも、今回パパになったときに「パパって子どもに対してどういう顔するのかな?」と。娘と喋るって、妹と話すときともまた違うし、お父さんってどんな感じなんだろう……と引っかかりがありました。
――そこから、父としての翔也をどう作っていったのでしょうか?
佐野:翔也自身もたぶん、子どもができたときには探り探りだったと思いますし、僕には「子どもができたら友達や兄弟みたいな親子になりたいな」という理想があるんです。本当はよくないことなのかもしれないけれど、「威厳のある父親よりも、そばに寄り添ってくれるパパになろう」という思いが自分の中にあったので、監督とも話し合いつつ、それほど深く考えすぎずに演じるようにしました。

――父親役を演じて、結婚観や育児観に変化はありましたか?
佐野:あまり変わっていないというか、翔也と結の関係は僕にとって理想の夫婦なんですよね。お互いがお互いの好きなこと、やりたいことをやっていて、子育てに関してはそのときに余裕のある方がしっかりとやる。どっちか一方が引っ張っていくんじゃなくて、二人三脚で進んでいるところがすごく素敵だなと思ったし、「こういう夫婦になりたいな」と思いながら演じていました。