河合優実「もう一度戦争について考えるきっかけに」 『あんぱん』蘭子役で大切にしたもの

河合優実が『あんぱん』で大切にしたもの

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』で主人公・のぶ(今田美桜)の妹・蘭子を演じている河合優実。朝ドラ初出演となる河合は、家族を陰で支える蘭子の視点に共感しながら、戦後80年の節目に描かれる作品の意義を深く受け止めている。着物が与える身体表現の変化、豪役・細田佳央太との3度目の共演、座長・今田美桜の姿勢から受けたインスピレーションなど、作品への理解が伝わる言葉の数々が印象的だ。戦争という現実とアンパンマンの思想が重なり合う『あんぱん』の世界で、河合が紡ぎ出す蘭子という人物の内面と魅力が浮き彫りになった。

「みなさんに観てもらうべきものは何だろう」

――河合さんは本作が朝ドラ初出演です。朝ドラに対しては、どのようなイメージを持っていましたか?

河合優実(以下、河合):過去の朝ドラのオーディションを受けたことももちろんありました。毎日放送されていて、日本中の方々が観ているので、ほかのドラマとも違う特別な枠だなと思っていました。『あまちゃん』(2013年度前期)は、普段あまりドラマを観なかった私の家族も観ていて、記憶に残っています。作品が成長するとそういう家庭にも入ってくるものなので、今回の『あんぱん』も誰かの記憶に残ればいいなと思います。

――『あんぱん』の放送が始まってからの反響はいかがですか?

河合:朝ドラ以外の現場で観てくださっている方もたくさんいらっしゃいますし、特に家族、親戚は楽しみにしてくれています。毎朝、お茶の間に流れているということの嬉しさが身に染みますね。

――『あんぱん』に限らず、公開されている映画も含め、数多くの作品で活躍されていますが、河合さん自身がこの作品をやりたいと、心が動く動機になるのはどういったものでしょうか?

河合:『あんぱん』も含めてですけど、今、みなさんに観てもらうべきものは何だろうということは考えます。今日一日そのドラマを観た後だけ楽しかったと思えればそれも意味があるし、世界の見方が少し変わるような作品もあれば、子供の時に観て、大人になっても心に影響を与えているようなものもあります。いろんな種類があると思うんですけど、それでもその時の自分が、これは心と身体を使って今の人に観てほしいと思えたものをこれからも届けていきたいです。

――役作りにおいては、どのように役を構築しているのですか?

河合:具体的に「この人は何歳から何歳までこういう時間を過ごして」というようないわゆる履歴書的な作り方ではなく、台本を読んで受け取るイメージから始めている気がします。画として浮かんでくる出立ち、佇まいからヒントを得ているので、具体というよりは抽象的なところから膨らませていく感じです。

――今回の『あんぱん』のように、一人の人生を長い間かけて演じるというのはなかなかない経験だと思います。

河合:ほかにはない、朝ドラでしかできないことだと思います。大きなハードルになると思うし、今後の自分の糧になる。実は、今撮影している段階では、私の実年齢ぐらいまでの蘭子しか演じてないんですけど、これから追い越されていったときにどんな表現ができるか楽しみです。

実は蘭子ではなくのぶタイプ?

――蘭子は、今田美桜さん演じるのぶ、原菜乃華さん演じるメイコとの間の次女で三姉妹という関係性です。河合さん自身が共感する部分はありますか?

河合:私は実際にも三姉妹なんですけど、のぶみたいな姉だったかもしれないです。私は長女で、下の姉妹のことをあまり考えずに自分の進路を決めていったり、自分勝手だったので……のぶが自分勝手というわけではないですけど(笑)。奔放にやってきたから、今になってもう少し面倒を見てあげればよかったなと思うこともあります。私は家の中では、一歩引いてみんなを見ているというタイプではなかったのですが、大人になってからだんだんそれができるようになって、今は蘭子のような立ち位置にある気がします。自分ができることをして家族を支えたく思ったり、やっと蘭子の目線を持てている気がします。

――河合さんは落ち着かれている印象でしたが、そうなったのもここ最近なんですか?

河合:小さい時から一人で遊ぶようなところもありましたが、猪突猛進に進んでいったり、みんなの前でリーダーをやることも多かったです。高校を卒業して、今の仕事を始めたタイミングで「落ち着いてるね」と言われるようになりました。自分では変わった感覚はないんですが、一人の人として立たなきゃいけない環境になって、自分の中の冷静な部分が強くなったのかもしれないです。

――河合さんから見た今田さんの座長としての姿はどんなふうに映っていますか?

河合:朝ドラの座長として素晴らしいと思います。私には想像がつかないぐらい、身体的にもハードなスケジュールだと思うのですが、私たちに疲れた顔を一切見せないんです。真ん中にいる人のエネルギーは全体に伝わっていくものなので、すごくポジティブな影響を与えてくれています。

――その姿を見て、河合さんもいつかはヒロインをという気持ちは?

河合:美桜さんの取り組み方が本当に素晴らしく、「私、こんなふうに1年間走り抜けられるかな」と思ってしまいます。ただ、今回一緒にやらせてもらって、大きな作品で座長を務めることの希望はもらいました。

――原さんの印象はいかがですか?

河合:みなさん自然体で力まない方の多い現場ですが、菜乃華ちゃんも本当に面白くて、可愛くてたまらないです。いつも楽しく、一緒にお菓子を食べてます。

――“ヤムおんちゃん”こと屋村草吉を演じる阿部サダヲさんは『不適切にもほどがある!』(TBS系)で親子役を演じた仲です。

河合:阿部さんは『不適切』と、その前にも舞台で二度(『フリムンシスターズ』『ドライブイン カリフォルニア』)ご一緒していて、ずっとお世話になってきた大先輩です。今回もみんなを安心させてくれる力を感じています。阿部さんがいらっしゃると本当に楽しいです。『あんぱん』の撮影期間中に、日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞をいただいた時に、阿部さんがシャンパンをくださって、すごく粋でした。普段はふざけてるのに、そういう時は優しいんです(笑)。実はとても静かで落ち着いていて素敵な大人の方なんですけど、ずっとお喋りをしてくれて、楽しい方です。

――『アンパンマン』で好きなキャラクターは?

河合:今回、蘭子を演じてロールパンナが好きになりました。子供向けのアニメのキャラクターだけど、正義と悪の心を合わせ持ってるのが面白い設定だと思いますし、人間味があって、孤高の存在でカッコいいなと思います。

――蘭子の青い着物を含め、朝田家の三姉妹の着物はそれぞれ『アンパンマン』のモチーフとなっているキャラクターのカラーが取り入れられています。

河合:そこに関してはどのぐらい自分たちで縛りを決めていくかということもあったと思いますが、見事に一貫して、ドキンちゃん(のぶ)とロールパンナ(蘭子)とメロンパンナ(メイコ)という、それぞれのカラーで選んでくださってます。当時のものを含め、素晴らしい衣装がたくさんあります。この後、時代が進んで着物からもんぺ、スカートやズボンを履くようになっていくのは、自分が年代の変化を感じながらお芝居をする助けになっています。また所作に関しては、着物の力がとにかく大きくて。着物を着ていると自然と出る仕草や姿勢があるんだということを初めて知りました。その服を着ていたら、自然とそうならざるを得ない。生活をするシーンが多かったので、ご飯を食べて、立って、座ってというように、最初の方は着物を着ている人として生活感を出すのが難しかったのですが、段々と身体に染み込んできました。

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