異能バトルアニメ『多数欠』が示した主人公像 対極的な主役2人体制が物語にもたらす作用とは

異能バトルアニメ『多数欠』が示した主人公像

 謎の特殊能力「特権利」を駆使し、過酷な生き残りゲームを戦う少年少女の姿を描くテレビアニメ『多数欠』のBlu-ray BOX 下巻が、6月18日に発売された。観れば誰でも、駆け引きや探り合いが繰り広げられるスリリングなストーリーと、異能の力が飛び交うエキサイティングなバトルを楽しみ、驚きと感動のクライマックスへとたどり着くことができるはずだ。

『多数欠』本PV

 2013年から宮川大河によって描かれてきた同名マンガを原作に、『飛べ!イサミ』や『機動戦艦ナデシコ』の佐藤竜雄監督がアニメ化した作品が、2024年7月から12月まで放送された『多数欠』だ。

 ある日突然、授業で使っていたパソコンのモニターに現れた「今 これを見ている YES or NO」という文字を見た高校生の成田実篤。その翌日、目が覚めたら世界中の人たちが死んでいた。

 「多数欠」ーー質問に対しての“多数派”が死ぬようになっている恐怖のゲームが、その日から「皇帝」を名乗る者によって始められた。確実に半分以上の人間が死んでいく「多数欠」が続けば、生き残った実篤や彼の仲間になっていく少年少女たちにも、いつか死の采配が下される。そんなのイヤだ! ここから、どこにいるのかも、誰なのかも分からない「皇帝」を倒すため、実篤たちの戦いが幕を開ける。

 もっとも、手を下さなくても多数決を取るだけで人類を絶滅させられる皇帝に、どうすれば立ち向かえるのかが分からない。何しろ「#01 明日」でいきなり 「男 or 女」という設問が繰り出され、主人公の実篤も含む男性がまとめて死んでしまうのだ。こんな強敵は滅多に現れないし、こんな展開のアニメもなかなかない。

 ここで活きてくるのが、ゲームの参加者たちに、「特権」や「権利」といった異能の力が与えられる点だ。例えば須藤良平の「確保権」は自身の持つ拳銃の弾丸が尽きないようにできる。鈴木理科の「回避権」はあらゆる物理的損害から自分を守ることができる。相馬隼人の「現化権」は絵や写真に描かれたものを現実化でき、例えば盾を作って身を守り、戦士を生み出して戦わせるということも。

 入賀煉の「分割権」は本当に凄い。空間も分割できれば、時に“状態を現す漢字”すら概念を分割して状況を変えられる。そうした様々な力を効果的に使い、時には組み合わせることによって皇帝の絶対的な力を覆そうとする戦いぶりが、トレーディングカードゲームを観戦しているようでワクワクさせられる。

 実篤の同級生、神臣はある事情で以前から持っていた「拒否権」という「特権」を使って、多数欠を拒否することで生き残る。その後、彼の活躍で実篤は生き返り、最初の「多数欠」で死んだ親友の龍太も復活した。そして「#10 絆」で、ついに対峙した皇帝を相手に最後の戦いを繰り広げることになる。その結末は、歓喜と悲嘆を同時に抱かされるものだった。

 ここまでがBlu-ray BOX上巻に収録されているエピソード。Blu-ray BOX下巻に収録される「#11 胎動」から「#24 光の射す方へと」までのエピソードは、少し苦い味で幕を閉じた戦いから1カ月後に始まる、新たな戦いを描くものだ。

『多数欠』本PV第2弾

 皇帝というラスボスを倒して平穏を取り戻したはずなのに、どうして物語が続くのか? それは、「女王」を名乗る新たな敵が現れたからだ。

 皇帝がいなくなった後も、世界からは大勢の人の命が失われたままで荒廃が進んでいた。実篤たちの仲間だった “ごぼう”こと、護国鳳天寺暴麟丸が偽の皇帝として振る舞って、世界が無秩序になるのを防いでいたが、そこに現れた女王が皇帝の復活を宣言。異能力を持った仲間たちと偽皇帝一派を排除するために動き出した。

 女王側が復活させた「多数欠」でいきなり「岡山県新見市に住んでいたことがある血液型RH-O型の男性 YES or NO」という超シビアな設問をぶっ込んできた時は、これで物語もジ・エンドかと焦ってしまった。しかし、そんな絶体絶命の状況を偽皇帝一派が凌いだ方法に、さまざまな力を組み合わせて戦う『多数欠』という作品の面白さが、変わらず続いていると確信させられる。

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